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山岳ライター小林千穂さん 熊野古道伊勢路ブログ

【2日目】
田丸〜女鬼峠〜栃原(距離約19.5km)

歩行距離:
約22.5km
行動時間:
約7時間30分
  • ※歩行距離はGPSログによるものです。いろいろ寄り道したところも計測されていますので、実際の距離とは異なります。
  • ※行動時間は歩行時間だけでなく、昼食や休憩、寄り道した時間も含みます。

栄亭旅館を出発し、玄関前の伊勢路を歩きはじめます。

台風が近づいていることもあって朝からあいにくの雨。
でも、シトシト降る感じで歩くぶんには問題ありません。

クランク状に曲がりながら旧街道をたどって外城田(ときだ)川を渡り県道13号を西へ。

このあたりは昨日、田丸城から見えた場所だと思って振り返ると城跡がよく見えました(木が茂る丘)。

朝は車の通りが多いですが歩道があるので安心です。
しばらく行くと道の右側に接待地蔵尊が迎えてくれました。

コスモスがきれいです。
昔、ここに旅人をお茶でもてなすお宅があったんですって。
土に埋もれてしまったお地蔵様が地元の人の夢枕に立って掘り出されたという言い伝えがあります。

ゆるやかな上り坂を進んでいきます。

久しぶりにコンビニがありました。
県道沿いは通る車が多いですが途中に買い物ができるお店があるのはありがたいです。
お手洗いも借りられますしね〜。

あ、農産物が売られている。

サツマイモやリンゴ、ナス、ジャガイモ、タマネギなどいろいろ。
観光関連の施設かと思ったら中嶋医院という病院でした。

さらにこの病院、温泉もあるんですね。

白龍温泉ですって。
親しみを感じる病院だわ。

この先は柿畑が続きます。

たくさん実っていました。
県道13号のこのあたりは柿ロードとも呼ばれています。

丸みがある四角が特徴の早生次郎柿だそうです。
そういえば形がプリっとしていますね。

おいしそうな柿を眺めながら歩いていたら食べたくなってしまった〜。
無人販売があったらぜったいに買っていたと思います。

柿の次はキャベツ畑。
ここ、玉城町のキャベツは大玉で甘みが強いそうですよ。

畑の景色を見つつ石佛庵に着きました。
例の道標とスタンプスポットがある〜。

新宮まで154km。
スタンプもゲットしました。

石佛庵には三十三体のお地蔵様が並んでいます。
旅人が安全を祈願する場所だということで私もしっかりお願いしました。

この先に変わった景色が見られる場所があるということでまたまた寄り道。
田んぼの間を歩いて行くと…

これかな?

わぁ、田んぼの中に森が浮かんでいるみたい。

ポツンと森が残ったところはだいたい神社なんですよね。
伊勢路からは少し外れますがこれは見ておかないと!

近づくと、やっぱり神社でした。

朽羅(くちら)神社。

新しい社殿とその右に同じ広さの敷地…。
神宮に関係ある神社に違いないと思って調べたら125ある摂社のひとつでした。
祀られているのは農耕の神さまだそうです。

伊勢路に戻ってまた旧街道を歩きます。

お、猿田彦ゆかりの地ですって!

猿田彦といえば、猿田彦神社に祀られていて、天孫降臨のときに道案内をされた神さまです。
お祭りなどで見る姿はだいたい鼻が高くて、赤い顔をしていて天狗のルーツだとも言われています。

でも、この地と猿田彦神がどう関わりがあるのかよくわからないのです…。

と、思っていたらちょうどおばあちゃんが道を歩いていたので訊ねてみました。
そしたら、詳しくはわからないけれど猿田彦神がこのあたりに住んでいたと子どものころに先祖から聞いたことがあると教えてくれました。

なるほどね〜。
そういう話を地元の方から聞けるのがとってもおもしろいです。

古い石塔が並ぶ永昌寺。

雨が降り続いていてなかなか休憩できる場所がないので、お寺の軒先を借りてちょっと休ませてもらいました。
ありがたかったです。

永昌寺でひと休みしたら再び伊勢路を歩きます。

この古い道標は熊野街道と和歌山別街道の分岐を示すもの。
天保4年(1833)に立てられたそうです。
和歌山別街道というのは、紀州藩の本城と田丸城を結んでいた道なのだとか。

その先で神社発見。

西外城田(にしときだ)神社です。

砂利が敷かれ、すっきりした雰囲気の神社でした。
祭神はどなたかしらと見たら…

神さまのお名前がずらり。

これだけの神さまがひとつの建物に祀られるのはめずらしいので調べて見たら、近くにあったいくつかの神社の神さまを合祀(いっしょに祀ること)し、さらに場所も移動されたようですね。

県道119号沿いに出ると水田を見ながらしばらく県道と旧道を交互に歩きます。
これまでずっと伊勢平野を歩いてきましたがここにきて山がだいぶ近くなってきました。

そして、伊勢路を歩きはじめて最初の峠、女鬼(めき)峠の入口に到着。
いよいよ峠越えです。

竹林に続く雰囲気のいい道に入ります。

足元にアケビの皮が落ちていました。
残念ながら、おいしい実は誰か(サルかな…)がきれいに食べたあとでした。

案内板につけられたスタンプスポットで、スタンプをゲットしたら登りはじめます。

美しい杉林の中、地形に合わせて歩きやすい道がつけられています。
人だけでなく、荷車も通ったので岩が露出したところは轍が残っているんですよ。

岩が減って線のようになっているのがわかるでしょうか?

この峠道を上から見て気づいたのは登山道と違ってカーブが緩やかなこと。
ジグザグだと荷車が曲がりきれないですものね。

峠の上部では硬い岩を切り開いて道を通した切り通しが見られます。
道の両側の岩が数メートル削られ岩壁となっています。
当時の技術を考えるとだいぶ難工事だったそうです 。

峠越えの旅人を見守った石碑、石仏も残っていました。

女鬼峠は高低差100mにも満たない小さな峠です。距離は約1.8km。
ここを私はのんびり歩いて40分ぐらいで抜けました。

雨の峠越えでしたが、古道歩きらしくなってきましたね。

きれいなカーブでなだらかに登る女鬼峠を越え、里に出るとお茶畑が広がっていました。

大台町の栃原と柳原周辺はお茶栽培が盛ん。
三重県の茶葉生産量は静岡、鹿児島に続く、日本第3位なんですね。

静岡出身なのでお茶畑はふるさとの風景。
心が落ち着きます。

緑の畑の向こうに茅葺き屋根の大きな家が見えてきました。
伊勢路を外れて行ってみると…

鄙茅(ひなかや)という日本料理のお店でした。
お食事はしませんでしたが店内も見せていただきましたよ。

ガラス張りの囲炉裏のお部屋の向こうに宮川の流れ。
ステキなお部屋ですね。

雨に濡れた茅葺が風流でした。
この鄙茅さんは鮎の甘露煮で有名な「うおすけ」というお店が経営しています。

なので、うおすけの甘露煮もここで買うことができます。
甘露煮なら日持ちするから旅の途中のおみやげに最適。

ということで…

鮎の甘露煮、さんまなどを買いました。
家に帰ったら炊きたてごはんといっしょにいただこうと思います。

鄙茅さん、ぶ厚い茅葺き屋根を見るだけでも価値があると思いますのでぜひ寄ってみてください。

伊勢路に戻ってこの先は旧街道を歩きます。

高さ150㎝もある背高のお地蔵さんを見ました。

150㎝といえば、私と同じぐらい。
お地蔵さんと背比べをしたのですがそれを自分のカメラで撮るのを忘れてしまった〜。

この先で宮川が見えます。

県道709号と合流したところに浄保法師五輪塔の案内が立っていました。
階段を登ってみると…

建物に守られた五輪塔がありました。
五輪塔には貞享元年(1684)と刻まれているそうです。

このあたりに伝染病が流行ったとき浄保法師は自ら生き埋めになって病気がおさまるよう、仏の救いを求めたと伝わっています。

寺子屋として使われた建物も見ました。

この先は県道歩きの区間が長いですが、車の通りはそれほど多くなく歩きやすかったです。

また旧道に戻って柳原観音千福寺にお参り。

このお寺の本尊、観世音菩薩は聖徳太子が作ったといわれています。
私の旅をサポートしてくださっている三重県の方がぜひ見てもらいたいものがあるとお堂の奥へ案内してくださいました。

わあ、宮川がよく見える!

宮川はここで大きく蛇行します。
その様子を見られる場所はここだけなんですって。

この日は雨なのでちょっと濁っていましたが、普段は青く透き通っているそう。
これを見ずに通り過ぎてしまったらもったいないというぐらいの眺めでした。

新宮まであと146kmです。
この道標のところで県道と分かれて旧街道沿いを行くと、酒蔵の元坂(げんさか)酒造があります。

元坂酒造は文化2年(1805)創業です。
今ある建物は増築・改修を繰り返していますが、いちばん古いところは創業時のものがそのまま残っているそうです。
現社長は6代目。

この日、社長はお留守でしたが社長のご子息で7代目にあたる専務が特別に酒蔵を案内してくださいました。
ということで酒蔵見学のスタートです。

元坂酒造ではこの地を流れる宮川の伏流水を仕込み水とし、自社の田んぼや近隣の農家に委託して育てた「伊勢錦」という
種類の米を使った酒づくりをしています。

これが伊勢錦。
伊勢錦は酒米として多く使われる山田錦の母種だといわれています。

近畿地方で広く作られていましたが戦後の米不足などにより一時期、栽培が途切れたそうです。
それを近年、元坂酒造が復活させた貴重なお米です。

*元坂酒造では伊勢錦のほか、三重県産のお米を主原料にしていて、富山や岡山のブランド米も一部使っているそうです。

精米したお米をこの機械で洗い水を吸わせます。
どのくらい水を吸わせるかでお酒の味が変わる大事な作業。
水に浸す時間はお米の状態や気候にもよるので杜氏さんの経験とカンが頼りだそうです。

お酒によっては正確さが求められるので機械は使わず、10㎏ずつに分けて手作業するそうです。
大変な作業ですね。

浸したお米は翌朝まで水を切り上の機械で蒸します。
今はボイラーを使っていますが昔は薪で釜の水を沸かしていたそう。
それで昔ながらの酒蔵には煙突があるんですね〜。

次に麹部屋を見せていただきました。

これが仕込みに使われる麹です。

麹は雑菌が入らないよう、上の写真のような専用の部屋で作られます。

この部屋の中は高温多湿で麹が育つのに適した条件になっています。
この部屋に雑菌が入ると一気に増殖してしまうので麹作り専門の人しかこの部屋には入れないそうです。

酒づくりに使われる麹を試食させてもらいました。
私は家で甘酒を作るのでたまに麹を買うのですが、スーパーで売られているものよりしっとりとやわらかく、甘みも強かったです。

これはアルコール発酵に欠かせない酵母(酒母)を作っているところ。
お酒づくりは麹菌と酵母をどう調整するかにかかっているそうです。
目に見えないものを思いのままにコントロールするのが職人技なんですって。

木の蓋をされているのが仕込み中のお酒。
酵母に麹、蒸米、水を加えて発酵させます。
仕込みを3回に分ける段仕込みという方法が一般的だそうです。

1日に2回ほど長い柄のついた櫂(かい)で混ぜもろみの状態を確認します。

発酵が進んだらもろみを絞り清酒と酒粕に分けられます。
その後、発酵を止める火入れをして完成したのが「酒屋八兵衛」などのお酒。

ぜひともお土産に買って帰りたいと思い、悩みに悩んで選んだのが…

酒屋八兵衛の山廃純米酒。
これは伊勢錦で作られたお酒。

なんと、昨年開催された伊勢志摩サミットでランチの食中酒として提供されたのだそうです。
先ほど買った鮎の甘露煮にも合うでしょうね〜。

早く飲みたい!

元坂酒造さんでは熊野みかんを使ったリキュールも作っていて、そちらも買いたかったけど荷物が重くなりすぎるので、
あとで電話注文します。

元坂酒造さんのHPはトップページの動画がステキです。

あ、またまた寄り道しちゃいました。

元坂酒造をあとにして

県道709号を進み、大台町新田(しんでん)に入りました。

ここも旧街道の左側に茶畑が広がっています。

製茶店も何軒か見かけましたよ。
この旧街道沿いにコンビニがありました。

栃原駅周辺、古道沿いはあまりお店がないようなので、買い物はここで済ませるのが便利です。

紀勢本線を渡ると

2日目の宿、旅館・岡島屋さんに着きます。

私は寄り道ばかりしているのであまり進みませんが、健脚の方は伊勢から1日でここまで来るそうです。
ご主人、岡島さんは地元愛にあふれ、昔の話など伊勢路についていろいろ教えてくださいます。

江戸時代から続く、長い歴史の宿。
今の建物は、ご主人が小学生のころに建て替えられたとのこと。

紀勢本線が岡島屋さんの敷地のなかを通ることになり建物の配置が変わったのですが、それ以前の明治時代の設計図で昔の
様子を説明してくださいました。
ずいぶんと広い敷地に旅館の建物などがあったそうです。

客室は昭和の懐かしさにあふれて心休まる感じ。

一方、お手洗いやお風呂は新しく改修されていてとっても快適に過ごせます。
Wi-Fiもバッチリ使えました。

最近増えているという外国からのお客さんにも理解があり、積極的に迎えているそうです。
夕食は海のもの、山のものを取り入れた手作りのお料理でした。

デザートはなんとアケビと柿。
両方とも今日、食べたいと思っていたものです。

アケビはなかなか手に入らないそうでなんともうれしい偶然でした。

お部屋や食事のときにいただいたお茶、色は薄めなのですが、味わい深く、香りがやさしいなあと思ったら岡島さんがご自身
で作られたそうです。
貴重なお茶ですが、部屋でひとり、たくさん味わってしまいました。

お漬物も岡島さんの手作りでした。
お料理ひとつとっても宿のお仕事は手間のかかることばかりですが、そうやって旅人をもてなしてくれることが
ありがたいなあと心にしみました。

さらに、驚きだったのは岡島さんは山登りが大好きなのです。
山の話をいろいろしていたらこれまたすごい偶然なのですが、7月中旬、私が槍ヶ岳に登ったとき岡島さんも槍にいたそうです。

私は槍沢からの往復、岡島さんは東鎌尾根縦走で時間が少しズレていたので会えなかったとは思いますが、その時の写真を
見せていただきながらお互いに大興奮しました。

話しても、話しても足りないぐらい夢中でおしゃべりをしました。

歩く旅っていいなぁ、すてきな体験ができて幸せだなぁとしみじみ思いました。

そうそう、心あたたまる話題をもうひとつ。

この日のランチは伊勢路の栃ヶ池から1kmほど西へ行ったところにある高校生のレストラン「まごの店」に行きました。

高校生レストランとしてドラマのモデルになったこともある有名なレストランで、受付開始するとすぐ満員になってしまう
ぐらいの人気。

相可(おうか)高校食物調理科の生徒さんたちがメニュー考案から調理、接客まで行い、運営しています。
私はメニューで一番人気の花御膳にしました。

天ぷら、煮魚と野菜の煮染め、和え物、だし巻き卵、切り干し大根の煮物などがセットになっています。
どれも割烹料理屋さんの食事のようにおいしかったです。

ナスの煮物は私も好きでよく作るのですがあの品のあるだしの甘さ、とろけるような柔らかさは真似できないと思いました。
あと、感心したのがだし巻き卵を焼くところ。

食堂にモニターがあり調理場の様子がライブ中継されています。
それを動画で撮ってみました(撮影の許可を受けています)。
モニターをスマホで撮影しているので見づらいかもしれませんが拡大したら見えるかな…?

卵焼き器を返す手つきがプロのよう。
ずっと見ていたら、どの生徒さんがやっても同じように上手なのです。

そして、お料理の手際だけでなく接客もすばらしかったです。
あいさつも、メニューの説明も丁寧で礼儀正しく、さわやかでした。

おいしいお食事をいただきながら、相可高校の生徒さんたちがテキパキと仕事(実習)をする様子を見ていてみなさんを応援
したい気持ちになりました。

きっとりっぱな調理師になるでしょうね。

伊勢路の2日目、この日も充実した旅になりました。